今年の11月15日から26日までの12日間、東京都、福島県、静岡県で開催される、デフ(きこえない・きこえにくい)アスリートのための国際スポーツ大会「東京2025デフリンピック」に向けて、5月9日に中野区立桃花小学校(東京都)で、小学校6年生約120人を対象に、特別授業『きこえないってどんな世界?』が開催されました。

特別授業では、3つのプログラムが行われました。
(1)デフリンピック特別授業
まず、川俣郁美さん(日本財団スタッフ/東京2025デフリンピック応援アンバサダー)と、デフテコンドーの星野萌選手(筑波技術大学4年生)による、きこえない世界やデフリンピック、手話言語コミュニケーションについて理解を深める特別講義がクイズ形式で行われました。
特別授業用に配られた教材「学ぼう!デフリンピック」をそれぞれ読みながら、授業の開始を待ちます。

手話表現者で、デフアスリートへ届ける、目で伝わる応援のカタチ「サインエール」の開発メンバー、西脇将伍さんから、手話の拍手の指導があり、川俣さんと星野選手を手話の拍手で迎えました。

デフテコンドーの競技会場は、桃花小学校がある中野区の中野区立総合体育館です。星野選手が「テコンドーは韓国発症の武道で、足技、キックの技を使った格闘技の一種です。競技は2つで、型の『プムセ』と組み手の『キョルギ』。美しさや正確さ、力強さを審判が評価して、勝ち負けが決まるという競技です」と、競技の説明をしました。

世界にはいろいろな人が生活をしていて、そのうち20人にひとりが「聴覚障がい者」ということも紹介されました。
「きこえない人は、みんな同じではないんです。補聴器を使う人もいれば、使わない人もいます。手話を使う人もいれば、手話がいらない人もいます。本当にさまざまなので、相手に合わせた方法を考えてコミュニケーションをとることが大切です。1対1なら口の形を読み取って内容を理解できても、大勢に囲まれたらそれはできないから、紙に書いたり、手話を使ったりしてほしいです。だから、相手に『いちばん良い方法はなんですか?』と聞くことも大切です」と、川俣さんは児童たちに伝えました。

身近な言葉でもある、「ありがとう」や「うれしい」、また「デフリンピック」などの手話もいっしょに勉強しました。

ただし、手話は世界共通ではなく、国ごとに異なる手話があり、200以上の種類が存在します。デフリンピックのように世界中のろう者が集まる国際大会では、「国際手話」が使用されることも説明されました。
さらに競技ごとに工夫があり、デフサッカーでは笛の代わりに旗を振り、デフ陸上やデフ水泳では、スタートの合図にピストルの代わりにランプが使われます。デフテコンドーの場合は、「審判は選手が見える位置まで回り込んで、合図をしてくれます」と星野選手。
その後、きこえる人もきこえない人も、音の強さやリズムを体で感じて、いっしょに音を楽しむことができる「Ontenna(オンテナ)」を、みんなで体験しました。

代表の児童がたたく太鼓の音に「Ontenna(オンテナ)」が反応し、音の大小に合わせて振動すると、児童たちからは驚きの声が上がりました。

星野選手は、「初めて体験しましたが、大きい音、小さい音に合わせて振動するので、音の形がわかるというか、すごくおもしろいと思います」と話しました。

(2)異言語謎解きゲーム
5月9日は「謎解きの日」ということもあり、手話言語が解決のヒントとなる「異言語謎解きゲーム」が実施されました。
西脇さんは、「音声のコミュニケーションだけではなく、身振りや紙に文字を書いて伝えるコミュニケーションもあるので、それを使った謎解きゲームを考えました。手話で謎解きにチャレンジしてください!」と説明しました。

児童たちは数人のグループにわかれ、西脇さんとともに、手話言語、ジェスチャー、文字を使って謎を解き、鍵のかかった宝箱を開けるゲームに挑戦。

特別講義で学んだ手話などをヒントに、みんなで協力して謎を解いていきます。宝箱を開けたチームからは、歓声が上がりました。


(2)テコンドーエキシビジョン、サインエールの体験
最後に、西脇さんが開発した「サインエール」を使った応援を練習しました。手話の拍手をベースに、『行け!』『大丈夫 勝つ!』『日本 メダルを つかみ取れ!』の3つがあります。
西脇さんは、「サインエールで大事にしているのは、選手に熱気や応援を届けたいという気持ちです。ろう者と聴者、国が違う人、さまざまな人たちが集まって、その壁を取り壊すことができるのがサインエールです。気持ちが目に見えるということに今日はみんな気づいてくれたのでよかったです」と話しました。

星野選手によるデフテコンドーのプムセ(型)の実演の前に、さっそく『大丈夫 勝つ!』のサインエールを送り、星野選手は本番さながらの演武を披露。

力強い演武後、手話の拍手や、『日本 メダルを つかみとれ!』のサインエールを送ると、星野選手は「たくさんの人に応援されているんだ、という自信をもって演武ができました。ろうの子どもが、いつか自分もアスリートとしてがんばりたいと思えるような選手になりたいです」と、児童たちに感謝を伝えました。

参加した児童も、「これから大人になって社会に出ていくと、きこえない人もたくさんいると思います。そうした人たちと仕事をしたり、関係を築いたりするうえで、手話などをもっと知りたいと思いました」などと、感想を話してくれました。

「東京2025デフリンピック」まであと150日を切りました。
今大会は、1924年にパリで第1回デフリンピックが開催されてから100周年の記念となる歴史に残る大会で、夏季・冬季を含めて日本初開催となります。21競技が実施され、日本を含む世界70〜80の国と地域から、約3000人の選手が参加します。みんなで応援しましょう!

(取材・撮影:2025年5月9日「デジタル少年写真ニュース」編集部 吉岡)