今年は、1945年の終戦から80年という節目の年です。
戦争を実際に体験した方々の声を直接聞く機会は年々少なくなっており、当時の記憶も次第に風化しつつあります。こうした中、戦争の記憶を次の世代へと伝えようと、全国にはさまざまな展示施設が設けられています。
その一つである「帰還者たちの記憶ミュージアム(平和祈念展示資料館)」(東京都新宿区)では、第二次世界大戦後も苦しい体験を乗り越えながら生き抜いた兵士、戦後の強制抑留者、海外からの引揚者に焦点を当てた資料展示を通じて、戦争を知らない世代にも理解を深めてもらう取り組みを行っています。
現在「帰還者たちの記憶ミュージアム(平和祈念展示資料館)」が中心となって、全国の戦争関連展示を行う13の施設を紹介する企画展「戦後80年 帰還者たちの記憶ミュージアム 関連施設をめぐるパネル展」 が、7月13日(日)まで開催されています。入場は無料です。

近年、小・中学校でも平和教育が積極的に行われており、子どもたちは幼いころから平和の大切さを学んでいます。こうした教育が広がりを見せる中で、13の参加施設は「戦争がどれほど多くの人々を苦しめ、大切なものを奪ったのか」を伝えることの重要性を共有し、「見て・学んで・考える」ことができる展示づくりに力を注いでいます。
日本各地で起きた戦争に関する出来事をそれぞれのテーマで紹介しており、来場者が戦争の時代を生きた人々の姿を知り、未来の平和について考えるきっかけを提供しています。
今回のパネル展では、平和の大切さを語り継ぐ「情報発信の拠点」として、それぞれの施設が地域で果たしている役割や取り組み、展示物なども紹介しています。

また、展示初日の7月1日には、13施設の代表者が集まり、「全国にはこれほど多くの戦争関連施設があるということを広く知ってもらいたい」という思いのもと、それぞれの施設の特色や今後の展望について発表が行われました。

【参加施設(パネル展示会場内の展示順)】

特攻隊の中継基地として数多くの特攻隊員たちが出撃した飛行場の跡地に建てた記念館で、米軍の大空襲により大きな被害も受けました。世界に唯一現存する戦闘機などが展示されています。
山の中の海軍の町 にしき ひみつ基地ミュージアム(錦町立人吉海軍航空基地資料館)〈熊本県錦町〉
もともと海軍の町でさまざまな役目を持った部隊が活動していました。戦後70年がたち、当時の姿をとどめたさまざまな遺構が発見され、それらを展示するフィールドミュージアム(野外博物館)としての施設となっています。
終戦間際わずか4か月しか使われなかった「幻の特攻基地」の跡地にある施設で、沖縄に出撃した特攻隊員たちの手紙や遺品などを展示しています。
飛行機もろとも敵艦に体当たりした陸軍特別攻撃隊員の遺影や遺書などを展示している資料館で、特攻の事実を知り、命の尊さを考えてもらうために、語り部による講演なども定期的に行っています。
1945年6月に受けた岡山空襲に関する資料や写真の展示だけではなく、どのような被害を受け、その後どのように復興したのかをわかりやすく紹介。空襲を体験された方の証言なども展示しています。
1945年7月の姫路空襲の実情を実物資料やジオラマなどの展示から紹介するだけではなく、空襲擬似体験装置があり、実際に空襲がどれだけ恐ろしいものであったのかを体験することができます。
舞鶴市は海外からの引揚者を迎え入れた街で、2015年に収蔵資料のうち70点が「ユネスコ世界記憶遺産」にも登録され、その一部を公開しています。語り部の育成にも力を入れており、中学生から大学生の若い世代の語り部も活躍中。
日中戦争以降に滋賀県出身者が集まる郷土部隊が構成されました。そうした滋賀県出身の兵士たちを中心とした県民の戦争体験を語り継ぎ、平和を願う心を育むための拠点となる施設です。
筑波海軍航空隊の跡地を活用した日本最大規模の戦争遺跡で、敷地内にある司令部庁舎をはじめ、映画やドラマの撮影も多数行われています。土日限定で地下戦闘指揮所などがある地下要塞も公開されています。
終戦まで全国の予科練教育・訓練の中心的な役割を担った「予科練」があり、そこで訓練を受けた若者たちの記録を展示するだけではなく、今年は開館から15周年ということもあり、戦後の予科練習生たちの姿を紹介した企画展も実施。
昭和館〈東京都千代田区〉
戦中・戦後(昭和10年〜30年代)の国民の生活に係る歴史的資料を収集・保存・展示してします。8月3日(日)には戦後80年 記念シンポジウム『「記憶」を伝えるということ』を九段会館テラスにて開催します。
戦争でけがをしたり、病気になったりした人たちやその家族等が体験した戦中や戦後の困難や苦しみについて広く知ってもらうために実物資料などの展示などを行っています。
帰還者たちの記憶ミュージアム(平和祈念展示資料館)〈東京都新宿区〉
兵士、戦後強制抑留者、海外からの引揚者が、戦争が終わってからも苦しくつらい体験をした人々に関する実物資料やジオラマなどを展示しています。海外の人や若い世代の来館者も増えていて、夏休みにはワークショップや映画上映会、講演会などのさまざまなイベントが開催されます。


帰還者たちの記憶ミュージアム(平和祈念展示資料館)の戦後強制抑留コーナーの展示の様子
「帰還者たちの記憶ミュージアム」の「関連施設をめぐるパネル展」に足を運び、13の施設に関する展示や活動に触れてみてください。そして、実際にそれぞれの施設を訪れることで、戦争の記憶に触れ、今、平和の尊さについて考えるきっかけにしていただければと思います。
「帰還者たちの記憶ミュージアム」(平和 祈念展示資料館)
【「関連施設をめぐるパネル展」開催概要】
〈タイトル〉戦後80年 帰還者たちの記憶ミュージアム 関連施設をめぐるパネル展
〈会期〉2025年7月1日(火)~7月13日(日)
〈会場〉 帰還者たちの記憶ミュージアム(平和祈念展示資料館) 企画展示コーナー
(東京都新宿区西新宿2-6-1 新宿住友ビル33階)
〈開館時間〉9時30分~17時30分 (入館は17時まで)
〈入場料〉無料
〈お問い合わせ先〉03-5323-8709
公式サイト
https://www.heiwakinen.go.jp
(取材・撮影 2025年7月1日「デジタル少年写真ニュース」編集部 吉岡、澤村)