
2024年8月に開催された「第26回ジャパン インターナショナル シーフードショー」で、(一社)大日本水産会魚食普及センター主催の「おさかな学習会」に参加した子どもたちが足を止めていたブースがありました。
それは有限会社まんてん.という看板がかかげられたブース。よく見ると、王冠をかぶった魚のぬいぐるみやサイダーなどが入ったびんが並んでいます。

「深海魚についてちゃんと勉強した? メヒカリって知っている? ちゃんと勉強したら、これあげるよ」と、ブースにいた男性が子どもたちに差し出したのは、サイダーのびん。
よく見ると「魚醤サイダー」と書いてあります。
「『魚醤サイダー!? 』、『メヒカリって何だ? メヒカリのサイダーって何だ?』ってなるでしょ? だからサイダーをつくったんです」

愛知県豊橋市にある有限会社まんてん.の代表である黒田孝弘さんは、笑顔でそう話してくれました。
「サイダーは、メヒカリを知ってもらいたくて、『何だ?』って足を止めてもらいたくて、そんな思いで開発した商品なんです」
黒田さんがメヒカリに出会ったのは、およそ20年前。蒲郡市の水産業者から相談されて、メヒカリに出会いました。
「もうそこからずーっとメヒカリばっかりだね。ハマっちゃった」
深海魚なので、すぐに鮮度が落ちてしまうこともあり、なかなか出回ることがなかったメヒカリを何とかできないかとの相談に、黒田さんは「地元の食文化」として何かできないか考えました。
「で、思いついたんですよ。学校給食に出せないかなって。文化って、やっぱり子どもたちに一番に伝えたいって思ったんですね。いずれ文化をになうのも子どもたちでしょ。『学校給食だ!』ってひらめいて。食べてもらうには、どうしたらいいかなあって、試行錯誤して。頭と内臓をとってからあげにしてみたら、とてもおいしかったんです」
市場にあまり出回ることのない「未利用魚」のメヒカリは当然、一般の人には知名度もなく、「学校給食で出してください」というのはあまりにも唐突。
そのおいしさを伝えたい、メヒカリを食文化にしたいとの強い思いで、黒田さんは、地元の小中学校を回って、給食の献立に「メヒカリのからあげ」を提案しました。
そのおいしさや栄養価も高いメヒカリは、一つの学校で採用されると、栄養士さんたちの間で、クチコミであっという間にその魅力が広がり、今では、愛知県内の約9割の小学校給食に導入されるまでになりました。
「からあげをつくるときにとる頭と内臓はすてるのがもったいないから、魚醤(ぎょしょう)にしました。しかも地元の水産高校(愛知県立三谷水産高等学校)といっしょに開発したんです」
さらには、よりメヒカリを身近に感じてもらえるように、先ほどのサイダーだけでなく、メヒカリの魚醤を使ったドレッシングやポン酢などのオリジナル商品を開発。
そのほか、黒田さんが「料理の味に深みが出るよ」とイチオシの商品は、メヒカリの魚醤を粉状にして、「だし」として使うことができる「しんかいパウダー」。
ここまでメヒカリのオリジナル商品の開発に力を入れるのは、「子どもたちに食べてもらいたい、子どもたちに伝えたいという思いが原動力です」と黒田さん。
「子どもたちに食べてもらいたいから、子どもたちがいる学校に出前授業にもたくさん行くし、イベントも出ます。最近は、栄養士の卵である大学生たちにもメヒカリの魅力を知ってもらうことが大事だと思って、大学にも出前授業に行くんです。東京の学校にも出向きますよ。だって、学生の時にメヒカリの魅力を知ってもらえたら、栄養士になったときに『メヒカリを献立で出そうかな』って思ってくれるでしょ? そうやって、メヒカリの食文化をいずれ日本中に根づかせていきたいんです」と熱く語る黒田さんの最大の夢は、「日本はもちろん、世界のメヒカリキングになること!」。
「だから、ほら、この子も王冠かぶっているの。キングだから!」と笑顔の黒田さんは、日本だけではなく、世界を視野に入れています。
「食べるだけじゃなくて、資源管理のこともちゃんと考えています。メヒカリを無駄なく使うというのはもちろん、メヒカリって深海魚なだけに、実はまだまだ謎が多い魚。生態もまだよくわかっていないから解明したくて、大学の先生にも協力いただいているんです」
黒田さんが日本、そして、世界のメヒカリキングになる日は、そう遠くはないかもしれません。
2023年1月に発足した「メヒカリ普及協会」の代表も務める黒田さん。
今年の3月1日(土)と2日(日)にはメヒカリ普及のために、メヒカリをはじめとする深海魚や未利用魚、そして低利用魚を見て触って学んで食べれる大型イベント「メヒカリ地魚フェス」をラグーナ蒲郡にて開催しました。
これからの黒田さんの活躍にも要注目です!
黒田さんのXアカウントや、協会のX(旧Twitter)やnoteにて情報をチェックしてください!
(取材・撮影日:2024年8月23日 少年写真ニュース編集部 吉岡)