ビルの屋上で養蜂(ミツバチを育てて、ハチミツをとる)にチャレンジしている会社が東京都江東区にあります。

隅田川にかかる永代橋のたもとにある、封筒メーカーの株式会社ムトウユニパックは、会社周辺の自然に恵まれた環境を生かして、2022年から養蜂事業【門仲ビーベース】をスタートさせました。

中心メンバーである古川祐子さんに、会社で養蜂を始めたきっかけを伺いました。
「2022年に江東区が実施している江東区ハニービー・プロジェクトの事務局にたまたま営業に行く機会があって、そのときに『ミツバチ(セイヨウミツバチ)を飼ってみませんか?』と誘われました。くわしく聞いてみたら、養蜂は地域貢献や環境保全にもつながるということでした。弊社も紙を扱う企業として、環境保全に関する取り組みについては、製品の端材をリサイクルに回すくらいなどしか、その当時はしていなかったので、ちょっとおもしろいなと興味を持ちました。会社に話をしたら、すぐに『やってみよう!』ということになり、道具なども購入してそろえました。江東区ハニービー・プロジェクトから師匠を呼んで、いろいろと教えてもらいながら、1年目は1箱だけやってみました。やれそうだというところで、次の年に6箱、今年はさらに8箱と、どんどん増やしています。仕事との両立は本当にたいへんですが、それでも女性社員とサポートメンバーでがんばっています。やはりミツバチの姿は見ていて楽しいし、もっと知りたくなってしまうんですよね。魅了されるって、こういうことかなって思うんです。ミツバチの姿を見ると元気になるし、かわいくなってしまって、やめられないんです」

養蜂のサイクルについて伺うと、ちょうど7月ごろが採蜜のピークとのこと。
「私たちが育てているのは、セイヨウミツバチです。同じミツバチでも、ニホンミツバチは野生なので、自分たちで生きていくことができますが、セイヨウミツバチはお世話が必要です。乳牛とかと同じ扱いで、セイヨウミツバチはいわゆる家畜として飼っています。東京都に届出も必要なので、書類を毎年提出します。3月に入るとちょこちょこ飛び始めて、春の花盛りになると子育てもさかんになるので、活動が活発になります。私たちは、3月下旬から4月の頭に、いつも1回目の採蜜を行っています。会社の近くに桜並木があるので、桜の期間に限定して「さくら蜜」も採取します。桜は開花期間が短いので、かなり珍しい商品ということもあり、毎年大人気です。ハチミツは、場所や気候によって味の特徴も変わるので、それも味わいの楽しみです。そこから夏に向けてミツバチたちが巣をつくるための板(巣枠)に、蜜や花粉を集めてきます。私たちは週に一度、卵があるか、女王バチがいるか、幼虫やさなぎの様子、あとはダニがついていないかなどを確認します。ダニは外に出かけたオスのハチについてくることが多いのですが、ハチの体から栄養を吸い取るので、注意が必要なんです」

屋上に設置されているミツバチの巣箱は3段重ねで、1段にだいたい9枚の巣枠が設置されています。いちばん下の段が「育児ゾーン」で、ミツバチたちが子育てをする場所、ほかの2段はそれぞれ巣枠にミツバチが集めた蜜が貯蔵されている「ハチミツゾーン」です。

「巣枠を確認して、ミツバチが、集めたハチミツを蜜ろうでふたをしたら、それは採蜜できる合図です」

巣枠の貯蜜具合をチェックして、採蜜できそうなものは巣箱からいったん引きあげます。ただし、その際には甘さ(糖度)も必ず確認します。

「ハチミツの糖度の基準は78度ですが、私たちは80度に熟成しています。巣の中でミツバチが羽をパチパチして水分を蒸発させることで、糖の濃度が高くなります。ミツバチがとってきたばかりの蜜は、もともと水分が多い状態なのですが、それをミツバチが、自分たちがおいしく食べることができるように糖度を高めて、熟成したら蜜ろうでふたをして保存するんです。それを私たち人間がいただく、というのが養蜂です。ミツバチのお世話をしながら、ハチミツを少しいただく、といったイメージでしょうか。雨が続いたり、湿度や気温が高くなったりすることなどがあると、糖度が思うように上がらないこともあります。その場合には、もう1週間様子を見るなどをします。今年の春先は気温が少し低かったので、その分、春の蜜は少なめでした。蜜の濃度は、花の種類でも変わってきます」

養蜂の作業は春から夏がピークで、そのあとはミツバチたちが冬を越せるようにするため、8月上旬くらいまででその年の採蜜作業は終了します。
「冬を越すために、ミツバチたちは蜜をため始めます。それもいただいてしまうと、ミツバチたちが春まで生き延びることができなくなってしまいます。オスのミツバチたちは、メスよりも少し体が大きく、働かないのに蜜を食べる量が多いので、秋になると巣を追い出されます。オスがたくさんいると、蜜の減りが早くなってしまうので、出ていってもらわないと困るんですね。残ったミツバチは、冬の間はずっと巣の中にいて、みんなで温め合いながら過ごします。寒過ぎたり、餌が足りなくなったりして死んでしまうこともあるので、冬でも暖かい日に巣箱の中の様子を確認して、蜜がカラカラになっているようなら、上白糖をお湯でとかして、砂糖水を作って与えることもあります。巣箱の温度も、私たちが保ってあげます。ちょっと過保護かもしれませんが」

オスを追い出してしまうなど、興味深い行動をするセイヨウミツバチの生態についても、古川さんに教えていただきました。
「生態については本などでも勉強しましたが、やっていくうちにわかってきます。ミツバチの社会は、女王バチ、働きバチ、オスのハチの3種類。働きバチは全員メスなんです。また、働きバチの一生は2か月で、その2か月でティースプーン1杯(わずか2.5g)のハチミツを集めます。働きバチは、生まれてからしばらくは内勤バチで、巣穴のそうじをしたり、子育てをしたりします。そのあと門番や、巣に風を送る係などをして、1か月くらいたつと外に出ていき、蜜を集めるようになります。巣を支える重要な役割を担っています」

女王バチはどんなハチなのでしょうか?
「女王バチは体が大きく、1つの巣に1匹と決まっています。それ以上の数が生まれそうなことが、さなぎの段階でわかったら、そのさなぎを除去します。ローヤルゼリーは、女王バチのさなぎの中に入っているんですよ。食べると苦いです。女王バチの寿命は、長くて2年くらいでしょうか。主に巣の中で卵を産む役割で、毎日1000〜2000個の卵を産みます。働きバチは卵からおおよそ3週間で成虫になりますが、どんどん入れ替わっていきますし、みんなきょうだいなんですよね」


オスのハチはどのような生態なのでしょうか?
「オスのハチは働かず、餌も働きバチからもらいます。女王バチとの交尾が主な仕事で、交尾をしたオスは死んでしまいますし、交尾ができなかったオスも、巣を追い出されて、最終的には死んでしまいます」
巣枠の「子育てゾーン」では、ミツバチの卵、幼虫、さなぎ、成虫になるまでを見ることもできます。ミツバチたちは自分たちの胃の中でろうを作って、それで巣を作り、女王バチが巣穴に1つ1つ産みつけた卵を働きバチが育てます。


「子育てをしているときには、穴に顔を突っ込んで幼虫に餌をあげている様子を見ることもできます。とてもかわいいです」と古川さんは笑顔。「かわいいといえば、花から集めた花粉を丸めた花粉団子を後ろ足につけて運んでくるのですが、その様子もかわいいです」とのこと。


「ミツバチを育てるようになって、鳥が屋上に来るようになりました。ミツバチを餌として取りに来るんですね。ミツバチの死骸は床に落ちるものもあるので、それを集めて野菜を育てている畑に埋めるなどをしています。ミツバチが花から蜜を集める際に受粉して植物が実を結び、それをまた食べる動物がいたり、ミツバチを食べに来る鳥などがいたりと、生態系が循環している様子を目の当たりにできるので、そこに自分がどう貢献できるのかをさらに考えることもあります。エコというところでは、巣枠を確認するときに、ミツバチを落ち着かせるためにまく煙は、工場で出た廃棄物を燃やして使うなどをしています」

会社では、ハチミツの抽出作業も行っています。
「先ほどもお話ししましたが、蜜ぶたができたら採蜜の合図なので、巣枠を回収して、ハチミツを抽出する作業を行います。巣枠の重さは2kgくらいあるのですが、それを持って、蜜ぶたをナイフで削る作業も、遠心分離機を自分で回す作業もすごく力がいるので、たいへんです」

蜜ぶたをナイフで削ると、ハチミツの甘い香りが漂ってきます。蜜があふれてくるのがわかります。

蜜ぶたをきれいに削ったら、巣枠を遠心分離機にセットして、ハンドルを回してハチミツを取り出していきます。


遠心分離機の底にたまったハチミツは、容器に移してろ過します。

「ろ過したあとは、5kg瓶に詰めて、それを近くにある障がい者福祉施設へ運んで、商品用の瓶詰めをしてもらいます。削りとった蜜ろうは、ろうそくづくりのワークショップなどに提供して、活用していただいています。昨年度は約3か月の採蜜期間で、約501kgのはちみつがとれました」と古川さん。

すべてが手作業で本当にたいへんですが、それでも楽しいとがんばる古川さんは、「ハチミツは江東区のふるさと納税返礼品にも採用していただいていますが、よりたくさんの人にハチミツや私たちの活動について、もっと知っていただきたいです。あとは、江東区内でやっている輪が、もっと広がるといいなと思っています。私たちのハチミツは『江東ブランド』に認定されていて、その仲間の集まりがあるのですが、特にミツバチの輪がこれからもっと広がっていけばいいなと思っています」と今後の目標も話してくださいました。

瓶詰めされたハチミツは、「門仲はちみつ」として販売されるほか、「江東区ハニービー・プロジェクト」を通じて、江東区内の小学校に寄贈しています。また、地域の飲食店で「門仲はちみつ」を使ったドリンクやスイーツメニューを開発してもらったり、販売イベントなどにも積極的に参加したりしています。地域の名産品になるように、養蜂に力を注ぐ古川さんたちの活動に、今後も注目です。

株式会社ムトウユニパック【門仲ビーベース】
Instagram公式アカウント https://www.instagram.com/monnaka_bee_base/
X公式アカウント https://x.com/monnaka_beebase
通販サイト「TsuTsu日和」
https://tsutsubiyori.com/?mode=cate&cbid=2826890&csid=0
江東区ハニービー・プロジェクト https://honeypro-koto.or.jp
(取材・撮影:2025年7月17日「デジタル少年写真ニュース」編集部 吉岡)