Tweet
サンシャイン水族館(東京・池袋)で11月24日(月・振替休日)まで、夜や暗闇で活動する生き物に焦点を当てた、特別展「真夜中のいきもの展」が開催されています。

その中で、ふだんなかなか見ることができない、注目の生き物が展示されています。
日本で2個体しか生存が確認されていない、「スライゴオオサンショウウオ」です。

サンシャイン水族館と、広島市にある安佐動物公園で「チュウゴクオオサンショウウオ」として飼育されていた2個体が、中国ではすでに絶滅したと考えられていた「スライゴオオサンショウウオ」であることが、京都大学の研究により、2024年に判明しました。
生存する個体は、日本、そして世界において、この2個体だけしか確認されておらず、その姿を見ることができるのは、サンシャイン水族館の特別展「真夜中のいきもの展」だけです。
8月18日(月)、そのスライゴオオサンショウウオを発見した、オオサンショウウオ研究の第一人者である、京都大学大学院地球環境学堂及び総合人間学部教授の西川完途先生と、スライゴオオサンショウウオを長年飼育してきたサンシャイン水族館の飼育スタッフの上市光之さんによるサイエンスセミナーが、サンシャイン水族館で開催されました。
スライゴオオサンショウウオってどんな生き物?
・中国原産のチュウゴクオオサンショウウオの一種で、最も体が大きくなる種類で「世界最大の両生類」ともいわれている
・「特定外来生物」に指定されているものの、「絶滅危惧種」の中でも、ごく近い将来における、野生での絶滅の危険性が極めて高いもの(CR)に登録されていて、ワシントン条約で保護されている
・個体数が少ないため、生態はあまり解明されていない
・日本で発見されたのは4個体で、そのうち生存しているのが2個体(2個体ともオス)。
スライゴオオサンショウウオは、サンシャイン水族館の特別展「真夜中のいきもの展」の入口を抜けるとすぐのところに展示されています。
「数年前まで、スタッフは全員チュウゴクオオサンショウウオだと思って飼育していました。スライゴオオサンショウウオを展示しているのは、サンシャイン水族館だけです! 今は希少な生き物ということで、大切に飼育しています。水槽を見ていただくとわかりますが、特定外来生物なので、厳重な管理が必要で、水槽の蓋を厚くしたり、南京錠をつけたりしなくてはならず、展示に制約もあります」と飼育スタッフの上市さん。

「1999年にここへ来たのですが、スライゴオオサンショウウオとしては初めての展示となるのでうれしいです。食べ物をそんなに食べるわけでもないので、飼育がすごくたいへんということはないです」と話してくれました。
この日はえさをやる様子も見せてくださいました。えさはワカサギ。健康面のバランスなどにも気をつけて、ビタミン剤や免疫をサポートするようなパウダーもつけているとのこと。

「長いピンセットのようなものを使って、えさをあげます。あまり食べない時期もあれば、シーズンによって、エビが好きだったり、ワカサギが好きだったりというタイミングがあったりします。えさをあげるのは、週に3回くらいです」と言って、水槽の上からえさをあげます。

なかなか食べないこともあるそうですが、この日は大きな口でパクッと食べてくれました。

「食べ物はかまないで丸のみにします。丸のみにするので、今はこれを食べたい気分じゃないよというときは、あとでそのまま吐き出していることもあるんです」と上市さん。
スライゴオオサンショウウオは体も大きく、ふだんはじーっとしていますが、脱皮をすることもあるので、よく見ると、水中に皮が漂っていることもあるそうです。

オオサンショウウオのひみつ
スライゴオオサンショウウオを見たあとは、サイエンスセミナーです。オオサンショウウオの生態についてや、スライゴオオサンショウウオ発見秘話などについて、「オオサンショウウオのひみつ」と題して、西川先生がわかりやすく説明してくださいました。

(1)オオサンショウウオの生態について
オオサンショウウオは、冷たい川を好みます。
1匹のお母さんが700〜1000個の卵を産んで、赤ちゃんは生まれたときは3cmくらいです。巣穴で3〜4か月、お父さんが子どもたちの世話をします。両生類はあまり子どものめんどうは見ないのですが、オオサンショウウオはきちんとめんどうを見ます。
尻尾がヒレになっているので、子どもたちに新鮮な水を送ったりします。殺菌したり、敵が来たら追い返したりといろいろなことをしているんだと思うのですが、こういうことも、実は最近までわかっていなかったんです。
平均的な体長は70〜80cmくらいで、大きいと最大150cmくらいになります。成体のサイズが40〜50㎝で、14〜15年くらいかかります。個体群や地域差もあって、水族館で飼うと大きくなりがちです。
肉食で、体のわりには小さなものを食べていて、主に小魚や甲殻類、水生昆虫などを食べています。川に流れてきた動物なら、結構なんでも食べると思います。
寿命は60〜70年くらいだと思いますが、まだまだわからないことが多いです。
(2)世界のオオサンショウウオの種類
世界には5種類います。日本は1種類、中国にいるチュウゴクオオサンショウウオが4種類です。
説明する際に、誰にでもわかりやすく伝えるために、日本のオオサンショウウオ、チュウゴクオオサンショウウオ、交雑のオオサンショウウオのぬいぐるみを作りました。
日本と中国のオオサンショウウオが混ざった交雑オオサンショウウオが増えている中で、日本には、日本のオオサンショウウオしかいない地域もあるので、そこを保護していくことも大切だと考えています。

(3)スライゴオオサンショウウオの発見
研究自体は、2011年から始めていました。
日本にいるチュウゴクオオサンショウウオに地域差があって、日本各地にいるオオサンショウウオが、日本のオオサンショウウオなのか、チュウゴクオオサンショウウオなのか、交雑なのかについて、自分たちで川でとったものと、個人宅や水族館で飼育されていたり、死体で保管されていたりするものなどの遺伝型を調査しました。
すると、4個体がスライゴオオサンショウウオと同じ遺伝子群に含まれることがわかったんです。
オオサンショウウオの中でも、最も大きくなるスライゴオオサンショウウオは、世界最大の両生類で、元の生息地の中国では絶滅した種でもあるので、賛否両論はあると思いますが、できれば個体群を復活させて絶滅しないように保護したいとも考えています。
チュウゴクオオサンショウウオとの違いは、スライゴオオサンショウウオのほうが鼻の穴が大きくてちょっと離れているというところです。模様やイボも違うという話もありますが、違いはあまりわからないと思います。

(4)環境と進化について
オオサンショウウオは冷たい川が大好きなので、温暖化の影響は直撃すると思います。
僕らのシミュレーションだと、数千年のうちにいなくなってしまうともいわれています。歴史の中で、オオサンショウウオは、隣の川に数万年かけて移動したと思うんですけれども、今の温暖化のスピードにはついていけないと思います。
オオサンショウウオは、2300万年くらい前から、少なくとも骨の形については変わっておらず、「生きた化石」とも呼ばれます。これはとてもおもしろいことです。
進化論を提唱したチャールズ・ダーウィンは、「変わらないことこそ進化の証明」ともいっているんですね。
変化があると進化が起きるわけですけれども、逆に変化がなければ進化する必要はない。オオサンショウウオとかシーラカンスは、生きる環境が変わらなかったから、進化する必要がなかったと思うんですよね。あまり動かないオオサンショウウオが、ずっと生き残ることができたのは、そういう環境が残っていたという絶対的な証明になって、それだけ日本の環境が優れていたという生き証人みたいなものだと解釈しています。その環境が残り続けていたのがすごい事実だと思います。
(5)オオサンショウウオの魅力
こんな細長い狭い日本の国土に、世界で最大級の両生類がいるということは謎ですよね。しかも、西日本の一部に。どこから来たのかとか、どうして大きく成長するのかなどを研究する生物地理学というのも私の専門なんですけれども、私はそこが魅力的だと思っています。
(6)これからの目標
中国の野生で確認できなかった種類が日本でも見つかってきているので、どこかにチュウゴクオオサンショウウオの新種や珍しい系統の個体がいるかもしれないので、これからも探してきたいと思います。

【参考】
スライゴオオサンショウウオ発見に関する京都大学から発表された論文
「スライゴオオサンショウウオが生きていた!―外来種が救う種の絶滅?―」
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2024-02-08
京都大学爬虫両棲類学研究室(西川研)
https://nishikawalab.h.kyoto-u.ac.jp
【お知らせ】
9月9日は「オオサンショウウオの日」!
おとなしい性格なので、ふだんはじっとしていてあまり動きませんが、目の前にえさが現れるとすばやく捕食します。そのシーンは圧巻です!
日時:9月9日(火) 14時〜(約10分間)
場所:サンシャイン水族館 特別展「真夜中のいきもの展」スライゴオオサンショウウオ水槽前
料金:特別展入場料のみでお楽しみいただけます。
サンシャイン水族館
所在地:東京都豊島区東池袋3−1
サンシャインシティワールドインポートマートビル・屋上
営業時間:10時〜19時
※最終入場は終了30分前
※季節・曜日で変動
入場料:大人(高校生以上)2,600円〜、こども(小・中学生)1,300円、幼児(4歳以上)800円
※変更の場合あり
問い合わせ先:サンシャイン水族館 03-3989-3466
https://sunshinecity.jp/aquarium
※土日祝日および特定日は、入場制限を行っておりますので、事前予約(日時指定・日付指定)が必要です。
詳しくは水族館ウェブサイトをご確認ください。
サンシャイン水族館 特別展「真夜中のいきもの展」
開催期間:開催中~ 11月24日(月・振替休日)
※ 営業時間は、時期によって異なります。
会場:サンシャイン水族館 特別展会場
料金:通常入場券600円 /「オリジナル蓄光ステッカー」付き入場券800円
※各種割引あり。詳細はウェブサイトをご確認ください。
ウェブサイト:https://sunshinecity.jp/file/aquarium/mayonaka/
(取材・撮影:2025年8月18日「デジタル少年写真ニュース」編集部 吉岡)