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国立科学博物館と日本で唯一の大工道具を展示している博物館の竹中大工道具館との共同企画展「植物×匠 めぐるいのち、つなぐ手しごと」が、国立科学博物館(東京・上野公園)で9月28日(日)まで開催中です。

監修を担当している国立科学博物館植物研究部多様性解析・保全グループのグループ長、國府方吾郎さんは、「匠の技と知恵の蓄積から、現在の日本の建築文化が成り立っています。ですが、それを語るうえでは、材料となる植物という要素が欠かせません。この展覧会ではそのつながりに注目をして、植物学のほうは国立科学博物館、建築学は竹中大工道具館が担当しました」と話し、「とくに小学生や中学生といった子どもたちにこの展示を見てもらいたいので、パネルに似顔絵イラストや吹き出しをつけてわかりやすく説明をしたり、なるべく触ることができる展示を多くしたりしています。見るだけではなく、日本の匠の技術を五感で感じ取ってもらえたらと思います」と、展示の工夫についても説明してくれました。

日本では、昔から身近な植物を上手に活用して、住まいを築き、自然の恵みをいかしてきました。「植物」と「匠の技」がどのような役割を果たしてきたのか、「組む」「葺く」「編む」「つなぐ」の4つの章に分けて、その知恵や技術を紹介しています。

第1章「組む」
日本の木造建築でよく使う木材がどう選ばれ、使われてきたのかを紹介しています。スギ、ヒノキ、アカマツ、クリの名前は知っていても、実際にどんな植物なのか見る機会はなかなかありません。植物標本と、これらの木を使用した木材の展示、とくに削りくずの展示では、色や質感、香りなどを体感することができます。


また、どのように木と木を組んだら外れにくくなるのかを考えて生み出された技「継手」は、もともとは中国から来た技術ですが、「日本の継手の精度がすばらしい!」と話すのは、竹中大工道具館の学芸員、チェ ゴウンさん。「日本は昔から地震が多いので、揺れても外れない緻密な継ぎ方が必要だった」のだそうです。中でも面白い継手として、今でも見ることができるのが、大阪城の大手門の控え柱ですが、誰が造ったのかもわからず、その構造は長年不明なままでした。X線検査をしてその仕組みがわかったそうです。

「継手」の見本が置いてあるコーナーがあるので、組み合わせることができるのかチャレンジしてみましょう。外すのは簡単ですが、外す前の状態に組み合わせて元に戻すのは難しく、その技術のすごさを改めて感じることができます。
目玉の展示ともなるのが、入り口を入ってすぐのところにある、映画『となりのトトロ』(1988年)で、主人公のサツキとメイが暮らす家の洋館をモデルにした木造住宅構造模型です。スギやマツ、ヒノキが場所によって使い分けられていて、とくにマツは油分が多く、粘りがあるので、曲げに対する強度にすぐれた木材で、梁などによく使われるそうです。

第2章「葺く」
よく「茅葺き屋根」という言葉を耳にしますが、茅葺きで使う「カヤ」は、「カヤ」という植物ではないんです。「植物でいうカヤは樹木なのですが、ここでいう茅葺きのカヤは、ススキやヨシ、クマザサなどの、屋根を葺く草のグループの名前なんです」と國府方さん。

茅葺き屋根の構造模型も展示されているのですが、「高知県にいらっしゃる四国で唯一の茅葺きの親方が、実際にここに来て4日間かけて造ってくださったものです」とチェさん。「この形は西日本に多いものです。雨漏りしないのかという質問もありますが、模型の周囲をくるっと回ってみていただくと、屋根の厚さがわかります。厚みが40cmくらいあるので、だいじょうぶです。傷んだところをまめにメンテナンスすれば、30年から40年はもちます。実際に使う場所に、道具も置いてもらいましたので、じっくり見てください」と、チェさんが説明してくれました。



ヒノキの皮を使う檜皮葺きや、スギやサワラなどの薄い木板を使う柿葺きも展示されていて、屋根を葺くのは茅だけではないことがわかります。屋根の見本を触ることができるので、やさしく触ってみましょう。

第3章「編む」
茶室の数寄屋建築で使われる、竹、畳、天井材などが紹介されています。

國府方さんが、「この展示でいろいろな植物の標本を展示していますが、その中でもとくにおすすめの1つを選んでくださいといわれたら、私はイグサを選びます。畳の材料ですが、みなさんは、植物として見たことはありますか? さらにイグサの花って見たことはありますか? イグサだけではなく、ここに展示してあるヒメガマなどは、実は今(7月下旬)が、花のシーズンなんです。ということは、ここに展示するためには、もっと早く咲いているところで、花を採取しないといけないんです。ですので、なんと、ちょっと早く咲いている沖縄に行って、採取してきました。今回の展示には、そんな苦労もあったりします」と教えてくれたので、イグサの植物標本は、とくにじっくりと見てください。花の位置や形にも注目です。

第4章「つなぐ」
最後に、「植物」と「建築」の今後の関わりについて紹介されています。植物とともに歩んできた日本建築の匠の知恵と技を、どのように未来へとつないでいくのか、考えてみましょう。
映像にも注目
各コーナーで、実際に建築に関わっている匠たちの映像を見ることができるだけでなく、いちばん奥に設置されている大型テレビでは、この展示のために撮影した、ススキの名産地といわれる「阿蘇山の茅」を育て、守る人びとと、20年ごとの式年遷宮用に茅葺き屋根の茅を、山を切り開いて準備する「伊勢神宮の川口萱地」の2本の映像を流していますので、展示と併せてご覧ください。
※YouTubeでも見ることができます。
国立科学博物館・竹中大工道具館共同企画展「植物×匠 めぐるいのち、つなぐ手しごと」
開催場所 国立科学博物館日本館1階企画展示室
開催期間 9月28日(日)まで
開館時間 9時〜17時(入館は16時半まで)
休館日 9月1日(月)、8日(月)、16日(火)、22日(月)
入館料 一般・大学生 630円(団体510円)、高校生以下及び65歳以上 無料
※本展は常設展示入館料のみでご覧いただけます
※団体は20名以上
アクセス方法:公式ホームページをご確認ください
国立科学博物館公式ホームページ https://www.kahaku.go.jp/event/2025/07plantsandcrafts/
国立科学博物館公式X https://x.com/museum_kahaku
国立科学博物館公式Facebook https://www.facebook.com/NationalMuseumofNatureandScience/
竹中大工道具館公式ホームページ https://plantsandcrafts.dougukan.jp
竹中大工道具館公式X https://x.com/tctm_pr
竹中大工道具館公式Facebook https://www.facebook.com/dougukan
(取材・撮影:2025年7月28日「デジタル少年写真ニュース」編集部 吉岡)