Tweet
今、デジタル技術を「知る」だけでなく、実際に活用して、課題を解決する力が求められています。その流れを後押ししているのが、文部科学省による「高等学校DX加速化推進事業」(通称:DXハイスクール)です。
この制度は、高校段階でデジタルやデータ活用などの成長分野を支える人材を育てるため、学校の取り組みを支援するものです。
高校のデジタル教育を加速させる「DXハイスクール」
DXハイスクールは、データ活用、プログラミング、ICT活用などを軸に、探究的・実践的な学びを強化して、文理を横断する学習へと発展させ、学びをより進化させるための事業で、単なる設備支援だけではなく、授業の改善、外部人材との連携、実践的なカリキュラム設計など、学びを動かすための土台そのものも含めて整えることができるのが特徴です。
ただ、制度や環境を整えるだけで、学びがおもしろくなるわけではありません。それを動かすのは「人」です。
ものづくりと探究を結びつけて、「DXハイスクール」を活用している、筑陽学園中学・高等学校(福岡県太宰府市)における取り組みについて、取り組みの中心になっている、生徒の山本陸琥さん(高校2年生:4月から高校3年生)と、担当の西口佳苗先生にお話を伺いました。

筑陽学園のDX教育〜DXは“特別活動”ではなく当たり前に〜
山本さんは中学校からコンピュータ部に所属し、プログラミングでゲーム制作などを行ってきました。
コンピュータ部は、現在中高合わせて60名ほどが在籍しており、学園の文化部では最大規模です。部員はそれぞれ自分が興味のあることについて、スキルを磨いているそうです。
DXハイスクール事業を通して学校が導入したのは、3Dプリンター。
山本さんは、3Dソフトウェア「Blender」でさまざまなモデルをつくり、3Dプリンターで出力する活動を始めました。
「5台の3Dプリンターが学校で動いている光景に、最初は驚きました」と話す山本さんは、学校のマスコットキャラクターをフィギュア化したり、文化祭などの学校行事で配布する記念品づくりを手伝ったりしていく中で、自分でつくったものを作品として誰かに見せることができるようになることが楽しくなり、はまっていったそうです。

事前につくりたいものの形を3Dに落としこんで、造形を調整し、出力して確認、失敗したら何が原因なのかを考えて修正していく、その試行錯誤のプロセスそのものが学びになります。
ひとりの挑戦がみんなの心を動かす
現在、横2m、縦1mの大きな世界地図のオブジェをつくるプロジェクトを山本さんは進めています。
学園内に「万博探究チーム」というチームがあり、昨年の大阪・関西万博での体験をどう伝えるかを考えるなかで、山本さんのDXチームとのコラボレーションがスタート。2つのチームで、3Dプリンターを使って、地形の凹凸を再現した世界地図をつくることにチャレンジをしています。

公開されている標高データを取りこんで、地理情報ソフトを使って加工し、3Dプリンターで地形を立体的に表現した世界地図をつくる──さらに将来的には、地図中にマイコン(小型コンピュータ)を組みこんで、ボタンを押せばその国の情報が表示されるような仕掛けも考えているとのことでした。
専門性の高い地理情報加工ソフトなどに触れ、試行錯誤を重ねる中で、データの扱い方などに関して学びとなる点がたくさんあり、たとえ成功できなくても試行錯誤することにこそ価値があるということを、身をもって感じることができたそうです。
「MakerWorld」という3D プリンター愛好家向けのプラットフォームサービスがあり、今回の3D
モデルもそこから取得したものがほとんどだそうです。
「MakerWorld」では、個人的に制作した3Dモデルを世界中に公開・共有することが可能で、こうしたSNSのような仕組みが整備されていることで、誰もが3Dの世界に気軽に足を踏み入れることが可能となっています。

探究学習の成果はスライド発表だけにとどまることもありますが、3Dプリンターを使って作品として仕上げて、校内に飾れば、興味を持つ人も増えます。
山本さんは周囲から「社長」と呼ばれるリーダー的な存在です。昼休みも放課後も3Dプリンターを使って熱心に作業を行うその姿に触発され、今まで関心のなかった生徒が3Dソフトを使い始めるなど、山本さんの熱量がほかの生徒たちにも伝わり、活動が広がり始めているそうです。
DX探究の取り組みをきっかけに、当初は選択していなかった生徒たちもDX教室に関心を持ち始め、次第に人が集まる場へと変化していきました。
現在では、DX探究に所属していない生徒が主体となり、子どもの居場所づくりを計画している生徒たちと連携しながら、巨大ガチャの制作に取り組んでいます 。装置だけではなく、その中に入れる景品も既存のデータを参考にしながら、自分たちなりに工夫を加えて、3Dプリンターで印刷し、来場する子どもたちが楽しめる仕組みづくりにまで発展しています 。

ひとりの本気が、ほかの生徒のはじめの一歩を生む──学校にとっては、その一歩をきちんと受け止めることができる環境を準備できるかどうかが大切になります。
山本さんは、「必要なものを購入したい場合、用途をきちんと説明すれば、学校側の理解も早いんです」と話してくれました。
ものづくりは、「ひらめいた瞬間に試すことができるかどうか」で、その進み具合も変わってきます。
所有しているスマートフォンや自宅のパソコンから、学校にある3Dプリンターを遠隔操作することができる環境も整備されているとのことでした。
学校にいない時間でも、思いついたら試すことができるというのは、学びを広げる機会の創出にもつながります。
DXから新しい学校のあり方を生み出す
「DXハイスクール」担当の西口佳苗先生によると、筑陽学園でのDXに関する取り組みについては、外部のエンジニアにサポートしてもらったり、地元の企業と連携したりしているとのことでした。
生徒だけではなく、外部の人たちと対話しながら、学校の内外がDXを通してつながるコミュニケーションを大切にして、学校の学びとしてDXを根づかせ、最終的には学校の“授業”と“文化”として継続していくことを目指しているとのことでした。
筑陽学園の取り組みが示しているのは、DXハイスクールの価値が「高性能な機材そのもの」にあるわけではないということです。
もちろん設備は重要ですが、本当に大切なのは、その設備を活用して探究学習や学校行事、部活動を結びつけ、さらに外部とも連携しながら、挑戦を継続できる仕組みを立体的につくり上げていく点にあります。
山本さんの活動は、個人の興味から始まりました。そこに学校行事の記念品づくりが加わり、万博探究チームとのコラボが生まれ、巨大な地図オブジェへと展開していきます。
さらにマイコンによる情報表示まで将来的な視野に入ったことで、デジタルが「教科の中だけの知識」ではなく、「表現や伝達のツール」となっていることがよくわかります。

山本さんは、2026年4月には高校3年生となり、受験勉強に専念する必要があるため、この活動を後輩に引き継ぐことを考えているそうです。しかし、後継者を見つけることは簡単ではないとも話してくれました。
この点について西口先生は、「中高一貫の強みと普通科の幅広さをいかし、 『好き』を起点に主体的に学ぶ生徒と、これまで関わりのなかった生徒が自然に交わる環境をつくりたいと考えています 。本校の校訓である『人を愛し、人に愛される人間』の育成を軸に、DXの取り組みも単なる技術習得にとどめず、人と人をつなぐ学びへと広げていきます 。テクノロジーと人間性が調和した教育を、これからも実践してまいります 」と意気込みをお話ししてくれました。
個人の熱量だけでは終わらせず、学校の仕組みとして残す。ここまで見据えているからこそ、DXが “文化”として根づいていくのだと思います。
DXは学校の可能性を広げる“追い風”
最後に山本さんは、最先端の技術に触れられることや、制約にとらわれることなく、自由にものづくりに取り組める環境が整っていることが、筑陽学園の魅力だと教えてくれました。
「つくりたい」と思ったその日にすぐ試せる――。そうしたスピード感のある環境が、学びをより楽しいものにして、次への挑戦へとつながっていくのです。
「DXハイスクール」という制度は、学校の可能性を広げる“追い風”といえます。
筑陽学園では、その追い風を生徒の挑戦へとまっすぐ結びつけるための取り組みが進められています。
作品づくりが探究学習と結びつき、そこに仲間が集まり、先生が活動の土台を整えていく。挑戦が「続く形」として積み重なっているからこそ、この学びはこれからさらにおもしろくなっていくはずです。
「好き」という気持ちを出発点に、それを誰かに届けて、さらに形づくりをして広げていく。
筑陽学園のDXは、そんな未来への道筋を、教室の中で描き始めています。
学校法人筑陽学園 筑陽学園中学・高等学校
福岡県太宰府市朱雀5丁目6番1号
電話 092-922-7361
http://www.chikuyogakuen.ed.jp
文部科学省 高等学校DX加速化推進事業
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/shinkou/shinko/mext_02975.html

3月6日から「ミラノ・コルティナ 2026 パラリンピック冬季競技大会」がスタート